おすすめ電子書籍5 柚月裕子『孤狼の血』

2018年4月17日書評

ヤクザ

ヤクザと実は仲良しの小説家という仕事

ヤクザ小説は面白い

暴対法があまねく広まって久しい。賃貸のマンションを借りるときも、転職するときも、何かの契約をする際には、必ず反社会勢力とのつながりがないことを表明させられる。そして、万一、黒いつながりが発覚した折には、島田紳助の如く、社会的制裁を受けなくてはならない。黒い御仁たちには厳しい世の中になったものだ。ところが、世の中には黒い勢力と未だに切っても切れない関係の輩がいる。小説家である。ヤクザを飯のたねにして、シノギを削っている人間が今もいるのだ。直木賞をとった黒川博行の小説の主人公コンビはヤクザ関係だ。(桑原は極道者に違いないが、二宮は堅気の可能性もある)国民的作家である浅田次郎も『プリズンホテル』シリーズでヤクザをテーマにしている。そういう例は挙げだしたら枚挙に暇がない。警察小説とかハードボイルドとかを売りにしている作家の作品には必ずやくざが出てくるように思われるが、取材と称して、かなり深い関係にあるんじゃないかと勘ぐってしまうのはおかしな話だろうか。

余談だが、セガのゲーム作品「龍が如く」シリーズの作者・名越稔洋は新宿歌舞伎町を取材していく過程で、なし崩しに要望がヤクザのようになってしまったらしい。もともとはゲーム作りしそうな風貌のおっさんだったらしいが、世界観に没頭しすぎて、とうとう登場人物のようになってしまったというのだ。クリエイター魂のすごさが感じられる逸話だろう。(そして、「龍が如く」の英名は「yakuza」である。)

ヤクザ小説というジャンルは存在しないのか

閑話休題。

ヤクザ小説は文芸界のメジャージャンルかと思いきや、ネット検索で「ヤクザ小説とか極道小説」と検索しても、結果は余り芳しくない。出てくるのは投稿サイトの素人の小説か、もしくは質問サイトで似たり寄ったりのオススメヤクザ系小説しか出てこない。Amazonのジャンル検索とか本屋のサイトが上位に出てくるわけではないのだ。ウィキペディアにもヤクザ小説という分類はなかった。ということは実は世の中的にはマイナーなサブジャンルということなのだろうか。(反対に警察小説を検索してみると、上位にウィキペディアが出て来る。”警察”はしっかりと認知されているようだ)ヤクザが好きなわけではないが、私自身ヤクザ小説が好きだ。上で挙げた小説は当然読んでいるし、仁義なき戦いやゴッドファーザーなんかの映画も好きだ。

そんなアウトローな私が最近良かったと思ったヤクザ小説がある。柚月裕子の『孤狼の血』である。ヤクザ小説ではなく、警察小説の一種なのだろうが、舞台が広島で、ヤクザとマル暴の切っても切れない関係性がテーマなだけに、私にはこの本が一級のヤクザ小説として映った。広島県警の敏腕マル暴刑事の新米の頃に残した日誌を元に、過去の回想で話は動いていく。その日誌を残した人物の師匠的存在が警察官というより、ヤクザそのもので、妙にリアリティがあって、面白かった。読後には広島弁が移っていることであろう。私は今似非広島弁を喋って家族から怪訝な目で見られている。

ヤクザ体験なら小説で

龍の如くをプレイすれば、任侠の気分を味わえるかもしれないが、時間がかかるし、お金もかかる。小説なら読むだけで、手軽にヤクザ体験が可能だ。特にグロくも、暴力的でもない本作を読めば、もう一人前のヤクザ者である。(死人は出るけど)ついでに広島弁もマスターできるのだから、一石二鳥とはこのことだろう。