戦犯は誰だ「未電子化が多い作家」

戦犯は誰だ「未電子化が多い作家」

未電子作品の多い作家とは?

そもそも電子書籍が爆発的に普及しないのは

電子書籍は日進月歩の勢いで、進化しそのシェアは拡大しつつある。ある統計によれば年次+20%程度で今後も伸長し続け、2017年度は2,600億円程度の市場規模に到達するという。

いい感じの成長ではあるが、出版全体からしてみれば、まだまだ10%〜20%ほどしか電子書籍は浸透していない。(出版全体を1.4兆円、電子が2,600億と考えるならば、19%の割合となる)俗に業界では、多くの創業、参入を経験した2010年を”電子書籍元年”と呼ぶことがあるが、もうすでに7年以上の歳月を経た。もっとドラスティックに電子が紙を食う事態を誰もが予想していたはずである。年成長+20%なんて低水準ではなく、もっともっと上を狙えていたと思っている業界人は少なくないだろう。しかし、何故、成長が緩やかなのか。その一つの理由が

キラーコンテンツ(タイトル)の不足である。

個人的にはこれに尽きるような気もする。もちろん、広告戦略やDRM問題など足を引っ張っている課題を挙げれば枚挙にいとまがないことはわかっている。しかし、多くの人に訴求する力を持った、文芸界のヒットタイトルが電子書籍で読めなければ、その受容は停滞して然るべきだろう。著作権と出版社の間違った戦略によって、世の中にはまだ出ていない電子書籍がたくさんあるのだ。

ちなみにキラーコンテンツとは、ハードの普及のために欠かせない、爆発的人気を伴うソフトのことであり、そのソフトを楽しみたいがために、ハードを手に入れる動機になるものだ。(ここで言うハードとは、すなはち、電子書籍である)

話を元に戻そう。

有名な未電子作家は文芸界だと、東野圭吾、宮部みゆき、百田尚樹など、漫画界だと井上雄彦や浦沢直樹らが挙げられるだろう。

他の作家も最初から配信していたわけではないことに注意して欲しい。市場の成熟に伴い、徐々に配信作品数が伸びていったのだ。それでもまだまだ制約付きのこともある。多い成約が時間差配信である。

集英社系は今でも一ヶ月遅れ

次の作品の発売日に注目して欲しい。ONE PIECEの86巻だ。(2017年10月現在、最新刊)

タイトル名横にある、2017/8/4という日付が見えるだろうか。これが発売日だ。一方、Kindle版はと言えば、

同様に日付を見ると2017/9/4とある。これは紙発売から約一ヶ月後に発売されたことを意味している。集英社系のコミックならこれが仕様なのだ。『キングダム』でも然りだ。もともとは3ヶ月程度遅れていた時期もあるので、かなり進歩した方だ。このように時間差配信という格差が「紙」と「電子書籍」にはつきまとう場合がまだまだある。このような格差の解消に努めている出版社もあるが、『ONE PIECE』や『キングダム』といったキラーコンテンツが堂々と紙と同じような扱いになればもっと、電子書籍普及に貢献してくれるはずだ。

その点、講談社はよくわかっている。『進撃の巨人』は紙と電子書籍が同時発売だし、看板マンガ雑誌のマガジンも配信している。(ジャンプは一般電子書店ではそもそも配信すらしていない)

戦犯は?

上述の通り、コミックにおいてはまだ格差は残るものの、時間の問題とも言える。そのうち集英社も追随してくるはずである。でなければ、売上が上がらないのは自明である。それにコミックの電子書籍における売上は悪くない。それは「めちゃコミック」や「Renta!」の事例を見てもらえればわかると思う。コミック専業の電子書店は成功している場合が多いのだ。

めちゃコミック売上推移

つまり、コミックは電子書籍の市場牽引に大きな役割をすでに果たしているということになる。ところが、文芸、こと文字物に関してはその貢献度がまだまだのように思われる。コミックのように『進撃の巨人』、『ONE PIECE』、『キングダム』などのキラーコンテンツが電子書籍化すらされていない。それらと同等の力を持つ文芸作品はもう誰もが知っている、作家の小説だ。

  • 東野圭吾
  • 宮部みゆき

この2名の電子作品を待たずして、何を待てばよいのか。私自身は読書が趣味であるから、その他の本で満足し得るが、一般ピープルにおいては、やはりこれだけのビッグネームの本が必要であろう。後は、

  • 村上春樹
  • 百田尚樹

も挙げられる。村上春樹について言えば、多くの本が昨年くらいから電子化され始めた。これは喜ばしいことだ。しかしながら、最新作『騎士団長殺し』や『1Q84』は電子化されていない。(村上本の新潮社から出ているものは、総じて、電子化されない。なぜなら、新潮社は業界でも有数の電子化奥手出版社だからだ)

百田尚樹もあれだけ売れた『永遠の0』などが電子化されていない。

未電子作品の多くが、作家もしくは出版社の意向が強いとされている。だから、私は思うのだが、電子書籍の世の中への普及を阻害しているのは、文芸作品に携わる上記の有名作家とそれらと結託する出版社だと思うのだ。色々な意見や考えがあるのだろうが、彼らには是非、前向きに本当に前向きに電子化を早急に検討して欲しい。